男はつらいよ
ブログでは塾と関係のないことのみを書いています。
本当にたいしたことは書かないので 御用とお急ぎでない方、
特に、お暇で気が向いた方にお読みいただければ幸いと書く次第です。
映画「男はつらいよ」が好きです。というお話を。
BSテレ東で、「土曜日は寅さん」という企画が帰ってきました。
土曜日の夜に一作ずつ、毎週寅さんを放送するという企画です。
以前にもこの企画をやっていて、シリーズ全50作を放送して、いったん終わりました。
しばらくぶりに、今週から復活しました。
私は「男はつらいよ」の大ファンなので、とても嬉しいです。
「男はつらいよ」をご存じない方のために、少々ご説明申し上げます。
映画「男はつらいよ」は、シリーズ全50作というギネス記録を持つ人気映画です。
主人公は寅さん。寅さんが年甲斐もなくマドンナに恋をしては振られるコメディーです。
楽しい映画であることはもちろん、とても深い味わいのある映画です。
マニアの私は当然のように全作観ています。繰り返し観ています。
気に入った作品は、次のシーン、次のセリフを覚えてしまってるくらい
繰り返し観てきましたし、これからも観つづけることでしょう。
同じ作品を観ても、若いときに観た感想と年齢を重ねてから観た感想はちがいます。
なので何度も繰り返し観てしまいます。
独身の頃と所帯を持ってからでもちがいます。
気持ちが元気なときと元気のないときでも。
何度観ても面白いです。
便利な時代になりましたから、観たい作品を選んで手軽に観ることができます。
でも、BSではありますがテレビで放送されたものを観るというのはちがった楽しみがあります。
なんと申しましょうか、
自分で選んだものより、誰かが選んだものに付き合う方が楽しいときってあるじゃないですか。
そんな感じで、放送してればそれなりに楽しみに録画して観てしまいます。
で、先日、「土曜日は寅さん」復活で、「男はつらいよ」第一作の放送でした。
当然観ました。
その感想です。
これから50作続くシリーズの記念すべき第一作。
何度も繰り返し観て、そのたびにいろいろなことを思いました。
今回は、先日公開の最新作、第50作「お帰り寅さん」を、
つづけて山田洋次監督の最新作「キネマの神様」を劇場で観たばかりなので
またちがった感想でした。
特に「キネマの神様」は山田監督自身の青春物語だったので
山田監督目線で観てしまいました。
映画「男はつらいよ」第一作。
公開は1969年でした。
1931年生まれの御年90歳、今や生ける伝説の山田洋次監督も、
当時は弱冠38歳の青年監督でした。
それまでの監督としての実績は
倍賞千恵子の出世作、「下町の太陽」と、その後は
クレイジーキャッツ、ハナ肇主演のコメディー映画シリーズ。
軽快で明るい映画で定評を得た、新進気鋭の監督でした。
車寅次郎というキャラクターは、
寅さんを演じる渥美清と山田監督の二人が出会い、
意気投合して語り合う中で生まれたキャラクターでした。
はぐれものの世界を、「昭和残侠伝」の高倉健のようにクラシカルに描くのでもなく、
「仁義なき戦い」の菅原文太ようにリアルに描くのでもない、
ちがった視点での表現をと、考え生まれたのが「車寅次郎」でした。
「男はつらいよ」はフジテレビの連続ドラマとしてスタートします。
人気になり、テレビドラマ終了後、映画化となりました。
映画化でキャストが豪華になるは今も昔も。
テレビ版では妹さくらは長山藍子が演じていましたが、
映画では倍賞千恵子を据えます。
山田監督と倍賞千恵子、「下町の太陽」以来そのコンビで作った映画は数知れず。
当然のキャスティングでありましょう。
映画が始まると、早々に御前様が出てきます。
ご案内のない方のためにご説明申し上げますと、
御前様というのは、帝釈天として名高い題経寺というお寺の住職です。
題経寺というのは、東京は葛飾柴又に実在するお寺です。
その題経寺の門前横町に、草団子屋の「とらや」
(虎屋の羊羹で有名な虎屋さんからクレームが入り途中から「くるまや」に変更)があります。
寅さんは、本来その団子屋さんの跡取りなのですが、フーテン(住所不定)を決め込んでいます。
門前横町の商店と、そのお寺の住職の絆は強く、
その住職、御前様は失敗ばかりの寅さんを、ときに温かく見守り、ときに厳しく叱ります。
そんな役どころが御前様です。
以上注釈でした。
実はこの御前様、テレビシリーズにはいないキャラクターでした。
映画化に伴い新設のキャラクターです。
以降「男はつらいよ」の世界観構築に欠かせないピースとなります。
そんな御前様に笠智衆(りゅう・ちしゅう)を起用します。
笠智衆は、多くの小津安二郎監督作品で主演を務めた名優です。
小津組の大看板を山田監督はこの重要な役に起用します。
山田監督の青春物語「キネマの神様」にも
小津安二郎をモデルとした先輩監督が登場します。
明るく軽い映画で評価を得始めた青年監督は、
重厚で芸術性の高い先輩監督に憧れました。
その様子が描かれています。
山田監督は笠智衆に小津監督とはちがう演出を施します。
小津作品での笠智衆は、日本の父親の典型を演じることが多く、
どちらかといえば真面目で堅物な登場人物を演じました。
しかし、山田監督は笠智衆に、ちょっと面白い人を演じさせます。
青年監督は巨匠に対し、自らの武器で立ち向かいました。
「バター」や「困った、本当に困った」は彼にしかできない品の良い笑いを生みます。
軽さと明るさが魅力の青年監督は、名優の晩年に新たな魅力を引き出しました。
テレビドラマ時代のままキャスティングされたのは
おいちゃん役の森川信と寺男の源ちゃんこと佐藤蛾次郎です。
森川信は浅草芸人で東京喜劇界の重鎮。渥美清の直系の先輩です。
座長芝居も受けの芝居も経験豊富、百戦錬磨のベテランです。
若く元気だった渥美清が自由奔放に寅さんを演じられたのは
彼がその芝居を充分に受けてくれたからでした。
また、倍賞千恵子も「下町の太陽」で主演級のスターとしてすでに松竹の看板でしたが、
座長も受けもできる森川から、渥美を立てる受けの芝居を学べたと後に語っています。
佐藤蛾次郎は、演じる役はおとぼけ専門なのですが、
実はなかなかの強面な一面もある役者です。
松田優作はどんな場面でも尊敬する先輩として佐藤を立てたといいます。
おとぼけの役柄から、盛り場などで一般の人たちに、
たちの悪い絡まれ方をすることが多かった佐藤ですが、
優作はいつでもどこでも体を張って、率先して彼を守ったといいます。
スクリーンからは垣間見えない、佐藤蛾次郎と松田優作の人となりを知る、
私の好きなエピソードです。
「男はつらいよ」には、これからたくさんのゲスト俳優が出演します。
なかには若気の至りでちょっとトガった俳優もいたでしょう。
そんなとき、かの松田優作をして頭の上がらない佐藤が現場でにらみをきかせました。
彼もまたシリーズに不可欠なピースでした。
おばちゃんの三﨑千恵子、タコ社長の太宰久雄、登役の秋野大作など
他にも、数え上げたらきりがありませんが、おなじみの寅さんファミリー集結です。
この第一作を礎に、ここから50年、50作続きます。
山田監督の配役の妙を感じました。
本作の終盤、さくらと博の結婚式のシーンです。
博の父として志村喬の登場です。
志村喬、「七人の侍」「生きる」「野良犬」などなどなど、
世界のクロサワこと黒澤明監督の数々の名作に、三船敏郎と並んで欠くことのできない俳優です。
志村の祝辞が本作を締めます。
喜怒哀楽のすべての感情をてんこ盛りにしたようなエネルギッシュな映画を
決して重々しくはないのですが重厚深淵な演技でサラッと締めます。
最後は渥美の楽しい芝居で涙と笑いの大団円。
この爽やかな涙と笑いが山田監督の真骨頂です。
「男はつらいよ」第一作はプログラムピクチャーといわれる低予算映画でした。
第一作の撮影をしながら、第二作、第三作の制作も同時進行していたそうです。
お金も時間も限られた中で作られました。
制約の多い中ですが新進気鋭の青年監督のほとばしる情熱が感じられます。
「小津」「黒澤」何するものぞとの気概をです。
栴檀は双葉より芳し。
映画「男はつらいよ」第一作。
やはり凄い作品だったんだなあと。
そんなことを思いました。
さて、「土曜日は寅さん」今週再開したばかりのです。
「男はつらいよ」全50作、何度も観ていますが、
やはりまた毎週観のるでしょう。
これから週末が楽しくなりそうです。
毎度、お付き合いいただき、ありがとうございます。
また、お暇のおりによろしくお願いいたします。