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ソース焼きそばの謎

ブログでは塾と関係のないことのみを書いています。

本当にたいしたことは書かないので 御用とお急ぎでない方、

特に、お暇で気が向いた方にお読みいただければ幸いと書く次第です。

 

趣味、読書なのでありますが。

多読乱読のクチで、お堅いものからごく柔らかいものまで、

割と好き嫌いなく、ノンジャンルで気の向くままに、まあ何でも読むわけであります。

 

本日は、最近読んで面白かった本のお話を、

今日も今日とてお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。

 

レコードやCDを手に取っただけで、

中身も知らずに買うことを「ジャケ買い」などといったものですが、

この本はタイトルを見ただけで、何の予備知識もなく買った本です。

著者も知りませんでしたし、書評の類も読んだことはありませんでした。

 

読もうと思ったのは、タイトルが少々気になったから。

「ソース焼きそばの謎」

このタイトルで本を一冊書いてしまう、

そこに俄かな興味を。

 

続けて帯の惹句です。

なぜ醤油ではなくソースだったのか?」

 

何かの拍子に、こんな問いに思い当たり、

なおかつ答えようと思った、そんな稀有なご経験のある方が、

これまでいったい何人らっしゃったというのでしょう?

 

少なくとも私は、そんなことを聞かれたことも疑問に思ったこともありません。

 

しかし、どのような問いであれ、

問われれば答えてみたくなるのが人情というもの。

 

「だって、そりゃあさあ…」と独り言ちてみたものの想像もつかない。

「う~ん…美味しいから?」

凡庸非才な私にはそんなことしか浮かびませんが、

そんなんで新書一冊読ませる内容になるわけがない。

 

惹句の下にはこう続きます。

「なぜ醤油ではなくソースだったのか?」

「謎を解くカギは「関税自主権」と「東武鉄道」にあった!

 

なんという角度からの切り口でしょう。

力石徹のクロスカウンターを少年院で初めて食らった矢吹ジョーの驚きもかくやです。

 

「ソース焼きそば」を説くに「関税自主権」と「東武鉄道」をもってせむ、と。

 

これは面白そうだと、ジャケ買いならぬ帯買いです。

読んでみると、惹句に違わぬ実に面白い本でした。

おススメです。

 

まあ、ひとくちに「~の謎」と申したりいたしますが、

「謎」は方向性の全くちがう二種類の「謎」があると申せましょう。

 

一つはすべての謎を解決する、決めのワンフレーズがある「謎」。

例えば、

「ドラえもんはなぜ靴を履かないの?足汚くない?謎なんだけど。」に対して、

「ドラえもんは未来の科学の力で地上から3ミリ浮いているの。だから靴を履かなくても足は汚れないんだよ。」

「なるほど。3ミリ浮いてたのね。」

的な「謎」です。

 

こちらはこちらで楽しいですが、

わざわざ本を読んでまでのことでもありますまい。

 

もう一方に全く正反対の「謎」があります。

 

「時間と空間の関係ってどうなってるの?」的な謎です。

 

ひとことで答えることは不可能な「謎」です。

たとえ彼のアインシュタイン博士に「ねえ、ひとことで教えてよお」とお願いしたとしても、

おそらくはアッカンベーとお答えになられるばかりでありましょう。

 

一つの「謎」が多くの「謎」を呼び、それらを丁寧に読み解くことでしか最初の「謎」の全容に近づくことはできない。

といった種類の「謎」です。

こちらは知的負荷は大きいのですが、それだけに面白くもあります。

 

本書は前者の「謎」のふりをしたタイトルで、

後者の「謎」に対するアプローチでその全容に迫る本でした。

 

そして何より良いなと思うのは、

そんな面倒な手法で大真面目に取り組むテーマが、

「ソース焼きそば」というのが実にほのぼのとして面白いわけであります。

 

「ソース焼きそばの謎」を解くために呼び起こされる多くの他の謎。

これらが面白い話ばかり。

 

「ソース焼きそばの謎」を解くために、

「小麦の輸出入と生産方法の変遷」を語り、

「人工甘味料の化学式」を説きます。

 

「東武鉄道沿線」の知識も必要ですし

「GHQの占領政策」も前提条件になります。

 

同じ小麦粉を原料とするものとして、

「ラーメン」「お好み焼き」「大判焼き」などにも触れますし、

鉄板で焼くもの仲間として、「ホルモン焼き」の歴史も必須です。

 

多岐にわたる新たな謎を丁寧に読み解くことで、

「ソース焼きそばの謎」という巨大な迷宮の全貌に迫る一冊でした。

 

「ソース焼きそばの謎」という少々おとぼけなタイトルではありますが、

日本近現代の食文化史、食品産業史に対する広範な知識と著者の深い洞察が書かれています。

 

と同時に、全編を通じて、

国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩いてきたという著者の

「焼きそばが好き」という気持ちもひしひしと伝わります。

 

そのせいでありましょう。読んでいる最中に、

「なんか、焼きそば食べたくなっちゃったなあ」という気になってしまいます。

 

読後には、コンビニに立ち寄り、案に違わず手に取ったのは好みのカップ焼きそば。

久しぶりにペヤングソース焼きそばを食べてしまいました。

 

寄席で、落語の名人が蕎麦の噺をかけると、近隣の蕎麦屋が繁盛したといいます。

 

本書も焼きそばが食べたくなるのは私だけではありますまい。

 

読後のおまけとして、

「久しぶりに食べたけど、やっぱり美味いなあ、焼きそば」

となること請け合いの本書。

読書の秋、食欲の秋にお勧めの一冊であります。

 

毎度、駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

また、お暇のおりにお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします。

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