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和訳「頑張ってね」

ブログでは塾と関係のないことのみを書いています。

本当にたいしたことは書かないので 御用とお急ぎでない方、特に、お暇で気が向いた方にお読みいただければ幸いと書く次第です。

 

夏目漱石が東京帝国大学で英語の授業をしていたときです。

I love you.の和訳を学生にさせました。

学生達は 「我は君を愛す」とか「ソナタを一生大切にせん」とか いろいろ答えたそうですが、

漱石先生は一喝しました。 「日本人がそんな直接的なことを言いますか?」

「『月が綺麗ですね』とでもしておきなさい」とおっしゃったそうです。

 

I love you.の和訳が『月が綺麗ですね』 意訳の極みですね。

直接的な表現の多い英語と、婉曲的な表現の日本語。

英語と日本語の文化の違いが言葉に表われています。

 

「アンタッチャブル」という映画を久しぶりに観ました。

この映画の中で「I love you.の和訳が『月が綺麗ですね』」的な発見がありました。

 

「アンタッチャブル」という映画は1987年公開のアメリカ映画です。

時は1920年代、ところはシカゴ。

悪名高き禁酒法の時代です。

当時のアメリカ、お酒が違法でした。

そうはいってもお酒を飲む人は絶えません。

違法ですがお酒、売れます。

危険なので高価く売れます。

儲かります。

 

違法なお酒を資金源に暗躍したのがマフィアでした。

悪がはびこるアメリカ第三の都市シカゴの物語です。

 

マフィアの親玉、ゴットファーザーことアル・カポネが敵役

中央政府から捜査官、ベビーフェイスのネスが送り込まれ、

カポネたちマフィアを一掃するという、

実在の人物エリオット・ネスの自伝を元にしたお話です。

 

シカゴの街は市長や議会をはじめ警察組織の末端までカポネの賄賂が行き渡り、腐敗しきっています。

ネスの仕事は味方で部下であるはずの地元警察から裏切られ続け、上手くいきません。

 

そんななかネスは仲間を得ます。

心あるベテラン警官ジム・マーロンです。

彼はかつて腐敗をただそうとしたために、今は閑職で不遇をかこっていました。

 

マーロンはかつて不正をただすために奮闘しました。

しかし、それができなかったばかりか、自分と家族の命を危険に晒します。

家族の安全を守るため、不本意ながら長いものに巻かれ閑職に甘んじているのでした。

 

正義感に逸るネスにマーロンが言います

「警官の第一の仕事は手柄を立てる事ではなく、無事に家に帰る事だ」

カポネの恐ろしさを知る、かつて敗れた経験からの言葉です。

これが伏線になります。

 

はじめは渋っていたマーロンですが、ネスの説得に応えて仲間になります。

ネス、マーロンの二人はさらに、

不良警官にして拳銃の名手の若者ストーンを、

財務省から応援に来てくれた経理の達人、オタクキャラのウォレスを仲間に加え、

悪と戦う正義の4人組、人呼んで「アンタッチャブル」となり

アル・カポネ率いる悪のシカゴマフィアと戦います。

 

勇者、戦士、僧侶、魔法使いの4人がそろってドラゴンクエスト

みたいなベタな展開は安心して楽しめるハリウッド映画の醍醐味です。

 

さて、本格的な闘いが始まります。

悪役カポネ達が狙ったのはネスの家族でした。

悪は悪らしくひきょうなところをついてきます。

(憎たらしいねえ、カポネってやつぁ!)

 

ネスには小さな娘(独断推定、とっても可愛い3歳)と妊娠中の愛妻(独断、美人)がいます。

カポネはネスの留守中、家族を襲います。

間一髪、アンタッチャブルの助けが間に合い未遂に終わります。

(よう、よう、そうこなくっちゃ!)

 

ネスは家族を安全な西海岸に避難させます。

「逆」単身赴任とでも申しましょうか。

家族を安全なところに匿い、自分はシカゴに残って仕事です。

 

ネスは葛藤します。

自分の仕事は、大切な家族を危険にさらしてまで成さねばならぬことなのか?

かつてマーロンも直面した葛藤です。

「警官の第一の仕事は手柄を立てる事ではなく、無事に家に帰る事だ」のセリフがよみがえります。

 

仕事と家庭のどちらが大事か?

永遠のテーマです。

 

ネスは葛藤します。

いつの間にか人生の師匠筋になっているマーロンも

「自分で決断するんだ」と相談にのってくれないうえに、

カポネに惨殺されてしまいます。

 

一人悩むネス。

その背中を押してくれたのは奥さんからのメッセージでした。

そのメッセージには「頑張ってね」と書いてあります。

 

小さな娘とお腹の子供を抱えて

てんてこ舞いの奥さんは、 ネスの仕事について、愚痴を言わないのが精一杯。

夫の仕事を応援したくてもその余裕がなく、言葉にする機会がありませんでした。

 

その心情をはかりかねていた奥さんから

「頑張ってね」とエールをもらいネスは迷いを捨て戦う決断をします。

勇気百倍、にっくきマフィアをやっつけました。

めでたしめでたし。というお話です。

 

長々、ご清聴ありがとうございました。

 

で、この「頑張ってね」です。

これは字幕の翻訳です。

 

翻訳字幕は字数制限があるとか。

あまり婉曲的な長い言葉にしてしまうと、読むのにいっぱいいっぱいで映画が入ってきません。

 

ここでは、ネスが仕事を続けるべきか、辞めるべきかの葛藤の場面。

奥さんからのメッセージで、続ける決断をしたことがわかればいいわけです。

 

奥さんから「頑張ってね」と言ってもらえたから頑張る、というわかりやすい名和訳です。

 

さて、「頑張ってね」と訳された元の英文でのメッセージ、

英語では何と書かれていたでしょう?

 

Cheer up!「元気を出して」でしょうか?

Go for it.「頑張っていこう」とか、

Good luck.「幸運を祈る」、

You can do it.「あなたならできるわ」、

Do your best.「ベストを尽くして」なんてのもよく聞くフレーズです。

 

奥さんからのメッセージ

「頑張って」と意訳された、奥さんの手書きの文字のメッセージは

私の想像したどの「頑張って」でもありませんでした。

 

スクリーンに大きく映し出されたのは

I’m very very proud of you!との手書きの文字。

「あなたのことを、とっても、とっても誇りに思うわ」でした。

(く~泣かすねえ!)

 

英語が直接的で日本語が婉曲的とはその傾向があるという意味では言えましょうが、

それがすべてではありません。

 

「頑張ってね」と日本語では直接的に言ってしまうところを

I’m very very proud of you!

「あなたのことを、とっても、とっても誇りに思うわ」なんてとても婉曲的に表現します。

 

いいフレーズです。

やりますな、英語も。

 

ずっと以前にも観た映画で、最近また観た映画です。

初めて見たときは全く引っかからなかったシーンですが、今回はとても感銘を受けました。

こんな発見があるので古い映画、かつて観た映画もつい観てしまいます。

 

毎度、駄文・長文にお付き合いいただきありがとうございます。

お暇があったら、またよろしくお願いいたします。

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