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映像化作品か原作か?

ブログでは塾と関係のないことのみを書いています。

本当にたいしたことは書かないので 御用とお急ぎでない方、

特に、お暇で気が向いた方にお読みいただければ幸いと書く次第です。

 

前回オススメした、映画「ドライブ・マイカー」はとても面白い映画ですし、

原作「女のいない男たち」もとても魅力的な短編集ですから、

多くの人が映画、小説それぞれの楽しさを充分に味わっていただけていると思います。

 

いただけていると思います、なんてサラッと言ってしまいましたが、

考えてみると、これはなかなか希なことかなと思ったりもします。

 

かつて、W村上のもう一人の村上、村上龍がインタビューに答えて言いました。

 

インタビュアー氏の問うて曰く、

「今回の小説で読者に伝えたかったことを、一言でお願いできますか?」

 

新作の魅力を簡潔に紹介したい氏の、聞きたくなる気持ちはよくわかりますが、

ちょっと困り顔であっさり村上龍はこう答えました。

 

「それが言えるくらいなら小説なんて書きません。」

 

村上龍の言うや然り、まったくもってごもっとも。

 

およそ表現は、その表現方法でしか伝えられないものを、その表現方法で表現します。

小説で伝えたいことは小説で、映画で表現したいことは映画以外では表現できません。

 

一編の小説を一言で言ってくれなんて、

野球をサッカーのルールでジャッジして試合を成立させてくれ、というくらいの難問。

村上龍の回答はイジワルでなく作家として正直な答えでありましょう。

 

原作があるものの映像化は常にこの難問への挑戦でもあります。

原作の感動をそのまま映像化は構造的難問といえましょう。

 

映画「ドライブ・マイカー」は、原作短編集「女のいない男たち」の中の

いくつかの短編を組み合わせた新たなストーリーになっています。

話の筋は若干異なるわけですが、これら両作品は、

映画、小説、どちらもそれぞれの表現方法で同じ世界観、空気感を表現しています。

どちらも楽しいという所以です。

 

たいていの原作アリ映像化作品は、どちらもそれぞれの面白さがあり、原則的に比べるものではないと思います。

例えていえば、

同じ勝負の世界だからといって、大相撲の横綱と将棋の名人のどちらが強いかを論じることができないようにです。

私たちはただ、横綱も名人も、それぞれの世界で「強いなあ」と感嘆するばかりです。

 

しかし、それを前提としても、

原作、映画、双方を読み、観、してみて、原作のほうが面白かった、映像の方が良かったはあります。

個人的感想としてはどうしてもあります。私にもあります。

 

読後、鑑賞後に、

これは断然、原作よりも映画のほうがいい、

あるいは、映画よりも原作のほうがいい、となることもままあります。

 

それをそのまま、原作がダメだった、

あるいは、映画がダメだったとも考えられるわけではありますが、

まあ、しばし。

そう早計にネガティブに結論づけることもありますまい。

ポジティブに捉えてみればこれ、とても良い映画、とても良い原作小説だったってことです。

 

となれば、そこに際だって感じられるのは、

映画、小説という表現方法のそれぞれの良さ、世界の豊かさ、奥深さです。

これぞまさに、それぞれ異なった醍醐味を味わえる絶好の機会とも言い得ましょう。

 

毎度長いマクラで申し訳ありません。

そんなわけで、本日は、

私的感想「映画が凄いこの一本」「原作が凄いこの一作」というお話しをさせていただきたいと思う次第であります。

今日も今日とて、よろしくお付き合いのほどをお願い申し上げます。

 

さて、まずは「映画が凄いこの一本」から。

 

私のベストワンは、

74年公開、野村芳太郎監督、橋本忍脚本の松竹映画「砂の器」です。

東京蒲田で起きた、とある事件をめぐる犯人捜しのお話しです。

原作は松本清張の同名小説でした。

 

多くの作品が映画、ドラマで映像化された松本清張ですが、

わりと簡単に映像化の許可はしても、

できあがった映像作品の出来をあまり高くは評価しないのが常だったそうです。

 

そんな松本清張が、唯一「これは僕の負けだね」と言った作品。

「素晴らしい映像と音楽だ、これは書けないからね」と言わしめた映画です。

 

映画の終盤、台詞による言葉は極端に少なくなります。

私の大好きな俳優、丹波哲郎の台詞だけが途切れ途切れに挟まれ、

美しくも切ない回想の映像を背景に、この映画のために書かれたピアノ協奏曲「宿命」が流れます。

映画という表現方法でしか表現できないと思わせられる名シーンです。

 

名脚本家、橋本忍は映像化困難と思われていた原作に、いくつかの新しい設定を加え脚本化しました。

重いテーマになってしまったので、松竹から商業的に成功が難しいと難色を示されます。

脚本化、映画化に向けては難題山積だったそうですが、

橋本忍だけでなく黒澤明や山田洋次の協力助言もあり野村監督で映画化されました。

私の思う「映画が凄いこの一本」です。

 

「砂の器」はこの74年の野村芳太郎監督作品の他にも、何度かテレビドラマ化もされています。

そのたびに少しずつ設定に手が加えられますが、橋本忍脚本のこの映画が私は一番好きです。

ちなみにマイベスト丹波哲郎、マイベスト加藤嘉も本作です。

 

続きまして、「原作が凄いこの一作」です。

 

私のベストワンはアーネスト・ヘミングウェイ作「老人と海」です。

数行読めばそれとわかる独特のイヘミングウェイの文体にハマっていたときに映画を観てしまったので、

タイミングが悪かったんだと思います。

もちろん映画を悪く言うわけではありませんが、

個人的好みとしては原作小説のハードボイルドな世界が大好きです。

 

今週末からはゴールデンウィークです。

どこも混雑しているだろうし、家でのんびりしようかねえ派の皆さん。

こうして、毎度お付き合い頂けているのも他生の縁ってものでございましょう、

機会があったら、観たり読んだりしてみるというのはいかがでしょうか?

 

毎度、駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

また、お暇のおりにお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします。

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